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仙台高等裁判所 昭和26年(ナ)19号 判決

原告 木村与七郎

被告 青森県選挙管理委員会

被告補助参加人 木村長吉

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は、被告が昭和二十六年八月十六日附でした裁決、即ち「昭和二十六年五月二十四日上北郡百石町選挙管理委員会が、木村長吉の異議申立に対してした決定を取消す。昭和二十六年四月二十三日執行の上北郡百石町議会議員一般選挙における当選人木村与七郎の当選を無効とする。」旨の裁決を取消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、

(一)  原告は昭和二十六年四月二十三日施行の青森県上北郡百石町議会議員選挙に立候補し、選挙の結果同月二十四日同町選挙管理委員会から当選決定の通知を受けた。然るに同年五月四日被告補助参加人から同町選挙管理委員会に対し、原告の当選の効力に関し異議の申立をしたところ、同委員会は同月二十四日右申立を棄却する旨の決定をした。そこで被告補助参加人は被告に対し訴願をし、被告は同年八月十六日請求の趣旨記載のとおりの裁決をした。

(二)  本件選挙において選挙会の決定した原告の得票数は百八票、次点者である被告補助参加人の得票数は百七票であるが、被告は原告の得票百八票中の「木村与之助」と記載された一票を他の候補者木村要之助の名を誤記したものと判断し、原告の得票数から右一票を差引き、原告の得票数を次点者である被告補助参加人と同数の百七票と認定して前記のような裁決をしたのである。

(三)  しかし、「木村与之助」と記載した一票は候補者木村要之助の名を誤記したものと認むべきでなく、原告の名「与七郎」を誤記したものであつて原告に投票されたものと認むべきである。のみならず次点者である被告補助参加人の得票中には「木村長吉(マルケイ)」「木村長吉(キチヨ)」「チヨキ」「キチキ」と記載した投票が各一票づゝ含まれているが、「木村長吉(マルケイ)」「木村長吉(キチヨ)」と記載した各一票は他事を記載したもので無効であり、「チヨキ」「キチキ」と記載した各一票も無効と解すべきであるから、被告補助参加人の得票中から右無効投票四票を差引くときは原告の得票は、次点者である被告補助参加人の得票数より多い。よつて被告の前記裁決は失当であるから、その取消を求めるため本訴請求に及ぶ次第である。

と陳述し、被告の主張に対し、被告補助参加人の屋号を「マルケイ」と称することは認めると述べた。

被告代理人は、主文第一項と同趣旨の判決を求め、答弁として、原告主張の事実関係は、被告補助参加人の得票中に「キチキ」と記載した一票が含まれているとの点を争うほか、その余の事実は全部認める。被告補助参加人は屋号を「マルケイ」と称し通称化されているから「木村長吉(マルケイ)」と記載した一票は被告補助参加人の氏名のほか、通称化された屋号を記載したもので他事を記載したものでないから有効である。又「チヨキ」と記載した一票は被告補助参加人の名「チヨウキチ」の「ウ」と「チ」の二字を脱落して記載したもので選挙人の意見は被告補助参加人に投票したものであることが認められるから同人の有効投票である。「木村長吉(キチヨ)」と記載した一票も被告補助参加人に対する投票として有効である。と述べ、

被告補助参加人は、

(一)  被告補助参加人は二十数年前から「マルケイ」という屋号を使用してきており、今日においては日常生活上も通称化するに至つている。このように通称化した屋号を氏名に冠し、「木村長吉(マルケイ)」と記載した投票が無効とせらるべきものでないことは、多く論ずるまでもない。もし、仮にこれを無効とすれば、原告の得票中にも「木村(ヌキ)与七郎」と記載した投票が二票以上含まれているが、これは当然無効とすべきである。又百石町地方においては、氏名を略称する風習があり、被告補助参加人の名「長吉」も、この地方では一般に「チヨキ」と略称されているのである。従つて「チヨキ」と記載された一票は「長吉」を意味し、選挙人の意思は被告補助参加人に投票したこと明白であるから、これを無効とする謂はない。

(二)  原告の得票中には「キヨ」と記載した投票が十九票、「ヌキ」と記載した投票が十九票、「木村ヨ」と記載した投票が一票含まれているが、これらはいずれも無効である。即ち、候補者木村要之助は従前の諸選挙においては常に「キヨ」という略称を使用して来ており、「キヨ」と記載した投票は同人に対する投票とせられて来た。又今回の選挙に際しては百石町選挙管理委員会に対し、書面をもつて「キヨ」又は「キヨー」という略称の届出をなし、ポスター等にも「キヨ」という表示をしてきたのに反し、原告は「ヌキ」と異称し、略名届或はポスター等にもこのような表示のみをして来たのである。従つて、「キヨ」と記載した前記十九票については、これを投じた選挙人の意思は寧ろ、候補者木村要之助に投票したものと認むべきである。仮りに然らずとするも、右は原告と木村要之助のいずれに投票したものか、選挙人の意思を確認しがたいものとして無効とせらるべきものである。「ヌキ」と記載した投票は屋号のみの記載であり且つ文字によらず符合を記載したにすぎないから無効である。又「木村ヨ」と記載した一票も原告と候補者木村要之助といずれに投票したものか選挙人の意思を確認できないから無効とすべきである。以上三十九票の無効投票を原告の得票中から差引けば、原告の有効投票は被告補助参加人の得票よりはるかに少くなる。

と述べた。(立証省略)

三、理  由

原告主張の事実中、(一)、(二)及び(三)のうち被告補助参加人の得票中に「キチキ」と記載した一票以外の三票が含まれている事実は当事者間に争ない。而して、原告は被告補助参加人の得票中に「キチキ」と記載した投票が含まれていると主張するけれどもこの点について何等立証しないからこれを認めることはできない。被告補助参加人主張の「キヨ」「ヌキ」と記載した投票各十九票、「木村ヨ」と記載した投票一票が原告の得票中に含まれている事実は、取寄に係る本件選挙の投票中の原告の得票とされたもののうちから提出された乙第三号証の一乃至十九、第四号証、第五号証の一乃至十九によりこれを認めることができる。よつて、原告及び被告補助参加人主張の各投票(但し、存在を認むべき証拠のない前示「キチキ」なる一票を除く)の効力について判断する。

(一)  「木村与之助」と記載した投票の効力

本件選挙の候補者中に「木村要之助」なる氏名の者があつたことは当事者間に争がなく、「木村与之助」の記載は候補者木村要之助の氏名と一字違であるのみならず、その発音の点においても「与之助」は原告の名「与七郎」よりも「要之助」に著しく似ているところからみて選挙人の意思は候補者木村要之助に投票する意思をもつて「木村与之助」と誤記したものと認めるのが相当である。

(二)  「木村長吉(マルケイ)」と記載した投票の効力

「マルケイ」が被告補助参加人の屋号であることは当事者間に争がないから「木村長吉(マルケイ)」と記載した投票は被告補助参加人の氏名と屋号を併記したものと認められる。而して右のような記載は公職選挙法第六十八条第一項第五号但書の法意に照し他事を記載したものに当らないものと解するのを至当とするから被告補助参加人に対する投票として有効である。

(三)  「木村長吉(キチヨ)」と記載した投票の効力

「キチヨ」は「木村長吉」の姓の最初の音「キ」の字と名の最初の音「チヨウ」のうち「チヨ」の二字をとり被告補助参加人の姓名を略記したものと認められるのみならず、当裁判所が真正に成立したものと認める乙第六号証によれば、被告補助参加人は選挙運動に際し「キチヨ」と略称し、ポスターに「木村長吉」の字に「キチヨ」と併記して一般に周知させた事実を認めることができるから「木村長吉(キチヨ)」の記載は他事を記載したものということはできないから被告補助参加人に対する投票として有効である。

(四)  「チヨキ」と記載した投票の効力

証人鈴木宗吉、小向倉松の証言によれば、被告補助参加人は「チヨキ」さんとも呼ばれている事実が認められ、又「チヨキ」は被告補助参加人の名「長吉」のうち「チヨウ」の「チヨ」と「キチ」の「キ」をとつて略記したものと認められ、選挙人の意思は被告補助参加人に投票する意思をもつて記載したものと認められるから「チヨキ」と記載した投票は被告補助参加人に対する投票として有効である。

(五)  「キヨ」と記載した投票の効力

原告も候補者木村要之助も、共にその姓と名の各頭文字の最初の音は「キ」と「ヨ」であるから、「キヨ」と記載した投票はそれ自体からみて原告又は木村要之助のいずれの姓名を略記したものか不明であるのみならず、証木鈴木宗吉、小向倉松の証言によれば、候補者木村要之助は選挙運動に際し、自分の姓名を「キヨ」又は「キヨー」と略称していた事実を認めることができる。右のような事情からみて「キヨ」と記載した投票が原告に対してされたものとはたやすく認められず、少くとも右は選挙人が候補者のいずれに投票する意思をもつて記載したか確認しがたいものとみるべきであるから無効と解すべきである。

然らば「木村与之助」と記載した一票と、「キヨ」と記載した十九票を原告の得票数百八票から差引くと、次点者である被告補助参加人の得票数百七票よりはるかに少くなるから、その余の投票の効力について判断をするまでもなく原告の本訴請求は失当としてこれを棄却すべきである。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条第八十九条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 村木達夫 石井義彦)

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